【IR責任者インタビュー】エイチームの新たな成長戦略「売上向上支援カンパニー」への変革とは。企業価値向上に向けて
エイチームは、新たな成長戦略として「売上向上支援カンパニー」への変革をコンセプトとして掲げました。これまではインターネットを軸に多様な事業を展開する総合IT企業として、スマホ向けゲームやウェブサービス、ECなどを展開してきました。今後は、強みとするデジタルマーケティングのノウハウを最大限に活かして、法人向けに集客やサービス運営に関するコンサルティング・業務支援ツールの提供を行うなど、売上向上に必要なソリューションをワンストップに提供する「売上向上支援カンパニー」への変革を図ります。
刷新した成長戦略を遂行すべく、新たな領域としてデジタルマーケティング支援機能、SaaS等のツールをM&Aで獲得していきます。今回は、エイチームの執行役員 社長室長としてIR責任者を務める森下 真由子さんに、戦略転換の背景や成長戦略の狙い、今後に向けた取り組み等についてインタビューしました。
エイチーム 執行役員 社長室長 兼 人材開発部部長 森下真由子さん
2010年、新卒でエイチームに入社。ブライダルや引越し事業で企画営業やマーケティングなど様々な職種を経験する。2022年7月に人事企画グループに異動し、人事制度の企画・運用などを担当。2023年5月に人材開発部の部長、7月に社長室長に就任。同年11月よりエイチームの執行役員を務める。現在は人材開発部の統括および社長室長としてIR/PRを担当している。
デジタルマーケティング力を活かして「売上向上支援カンパニー」へ
3つの事業を展開する「総合IT企業」からの大きな事業変換
エイチームは、ライフスタイルサポート事業、エンターテインメント事業、EC事業という3つの事業が独立性を保って、スピーディーに成長していくことで、企業として成長してきました。近年、コロナの影響等に加えて、各領域の市場環境にも変化が生じ始め、これまでのような成長を続けるのが難しい状況になりました。
エンターテインメント事業においては、スマートフォンの市場は伸びていたものの、スマホ向けゲームの市場は成熟期になり、かつ大きな資本を持つ海外企業の参入による開発費の高騰等、優位性を出しづらい状況に。ライフスタイルサポート事業も、事業としてはトップシェアを誇るメディアを有し、それを新規でまだ展開していない業界・市場に横展開することで成長してきましたが、新たな成長余地に陰りが見え始めてきました。EC事業については継続顧客を積み上げるビジネスモデルなので、着実に成長はできるものの、エイチームグループ全体にインパクトを与えるには時間がかかります。グループ全体の売上・利益が伸び悩んできたこともあり、新たな成長戦略を打ち出す検討に入りました。
エイチームの強みを活かして売上向上を支援する
新たな成長戦略を検討するにあたって、エイチームの強みを改めて整理しました。整理した結果、私たちの強みは、デジタルマーケティング(Web広告運用やSEO等の顧客獲得力)であるとの考えに至りました。
今まではメディア(比較サイト・情報メディア等)を軸に自社でデジタルマーケティングを実践してきました。インハウスでマーケターを抱えて、集客したユーザーを提携先の企業様に送客してきました。このノウハウは、コンサルティングにも活かすことができる。あるいは法人向けに外販もできる。広告代理店として、他社の広告運用を受託することもできる。それらを行っていくために、例えば、Webマーケティングの会社や広告代理店などのM&Aを実施して、強みである集客領域でのデジタルマーケティングのノウハウを連携して機能を拡充していこう。そうすることで、さらに多くのお客様の売上向上を支援していこうと考えました。
デジタルマーケティングが強みだと言える理由
デジタルマーケティングが強みと言える理由としては、まずはトップシェアを誇るメディアを複数展開していることが挙げられます。市場において最も多くの顧客を集客できるチャネルを運営している事実は、強みの証左になると思います。また、3つの事業の売上構成比はライフスタイルサポート事業が7割以上を占めており、メディア運営を通じて多数の提携先企業様の集客に関する課題をお伺いする機会があり、集客したユーザーの送客以外の領域でも課題解決ができるよう機能を拡充していくことは妥当性があるとも考えました。
集客領域におけるデジタルマーケティングのコンサルティング会社や広告代理店は多く存在しますが、本腰を入れてメディアを展開している企業は多くありません。この点については、エイチームは独自性を持っていると言えます。メディアを活用した集客のノウハウに加えて、送客を通じた提携先の企業様との関係構築や情報収集といった顧客との関係性においても、私たちには独自性があると考えています。
新たな成長戦略を掲げるに至った経緯
決断のきっかけは東証の市場区分の再編成
今回の成長戦略を掲げるに至った契機のもう1つとしては、東京証券取引所で市場区分が見直され、「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」に再編されました。市場区分の再編に伴い、上場維持基準も見直されました。再編後、エイチームはプライム市場に移行しましたが、引き続きプライム市場に上場維持するためには、経営の変革が求められる状況に。明確に期限が設けられたことでスピードも求められましたし、変革を決定するための腹決めもしやすい状況に置かれることで、強い意思をもってプライム市場を維持する決断を下しました。
プライム市場、上場維持への意志
代表の林の意志も固かったです。エイチームが上場を果たしたのは2012年。2005年に誕生した経営理念「みんなで幸せになれる会社にすること」「今から100年続く会社にすること」の実現へ向けて邁進してきました。様々な職種のスペシャリストが仲間となって手を取りあい輪をつくり、同じゴールに向かってお互いを高め合い、新しい創造性と技術でさらなる高みへ挑戦する・・・これはエイチームのロゴデザインに込められた意味ですが、今後もさらなる挑戦、新たな成長を続けていこうという覚悟、意思があったのだと思います。
企業が上場することのメリットは色々とありますが、以前、林から聞いたことがあるのが「社会からの信頼感」。エイチームが上場する前は、新卒採用で内定を出してもご両親から反対されるケースがあったそうです。それについて「悲しい」と言っていました。今は、同じようなことはありませんし、長く働きたいと思って入社してくれる優秀な社員も増えてきました。成長に加えて、社会からの信頼感も大切にしようと考えてプライム市場に残ることを決断しました。もちろん、今後の企業成長に欠かせない資金調達の幅が広がる点もプライム上場維持実現を目指す理由の一つであると思います。
「売上向上支援カンパニー」が展開するビジネス
様々なソリューションを展開して売上向上を支援
「売上向上支援カンパニー」を改めて定義すると「強みであるデジタルマーケティングを最大限に活用して集客等の支援をすることでお客様の売上向上に貢献していく企業」です。
具体的には、集客支援の領域では、運営しているメディアによる送客で価値を発揮していきます。M&Aにより広告代理店やコンサルティング会社との連携を図り、お客様の広告の運用代行や広告運用に対するコンサルティングも実施します。また、業務効率化の支援としてSaaSの提供を行います。マーケティング領域のSaaSをM&Aすることで、お客様のマーケティング業務の加速化・効率化や集客の強化、あるいはお客様の業務効率化につなげていただくことを想定しています。
コンテンツ管理等を行うmicroCMS社のM&Aを2024年6月に実施
2024年6月にヘッドレスCMSサービスを運営するmicroCMS社がM&Aによりエイチームグループ入りしました。ヘッドレスCMSとは、Webサイトのコンテンツを構成する画像やテキスト、デザイン・レイアウト等を一管理することに特化したシステムです。一般的なCMSとは異なり、コンテンツの表示においてエンジニアが自由度の高いカスタムを行うことができます。
microCMSは、エイチームグループが展開するコミュニティサービス「Qiita」との相性がとても良いです。現在、microCMSの累計利用実績は8,000社、アクティブ利用者数は2,450社に及びます。積極的な営業活動をすることなく、Qiitaに「microCMSの使い方やノウハウ」に関する記事を投稿することで、多くのアカウント数を獲得しました。エンジニアを有する組織やチームが増える中、今後はもっと意図的にmicroCMSとQiitaの連携を図って、集客を強化していこうと思っています。
M&Aで新たなメディアを獲得
同時期に、暗号資産に交換可能なポイントが貯まるポイ活アプリ「Bit Start」を運営するPaddle社のM&Aを行いました。Paddle社はエイチームがまだ開拓できていない領域における広告運用やポイントアプリ運用におけるノウハウを持っています。新たなマネタイズ手法によるメディアであること、既に収益性の高い事業を運営しているという2点の理由からM&Aを実施しました。
これからM&Aを行う対象企業
これからM&Aを実施する対象としては、今後、法人向けに集客支援や業務効率化支援を実施していくにあたり、まずは販路としてハブの役割を担うであろうマーケティングのコンサルティング会社や広告代理店を考えています。さらにはPaddle社のようなメディア、microCMSのようなSaaSなど、エイチームが手がけていない領域で成長戦略に必要だと判断した場合は適宜M&Aを行っていきます。
延べ50億円のM&Aについて今後2年間を目途に実現していこうと考えています。既に20億円で2社のM&Aを実施しており、30億円近くを残りの期間で進めていきますが、売上向上支援カンパニーへの変革に向けて、さらなる追加の規模感でのM&Aが必要となってきます。また、短い期間でプライム市場の上場維持基準に適合しつつ成長していくことを目指しているので、M&Aの対象としては黒字企業を想定しています。集客支援を行うコンサルティング会社や広告代理店となると上場企業も対象になり得ますので、買収金額が20~30億円となる可能性もあります。いずれにせよ、一過性のものではなく継続的にM&Aを行って、事業を拡張していく必要があると考えています。
成長戦略を促進するための外部との提携
アドバンテッジアドバイザーズ社との事業提携と資金調達を実施
2024年5月にmicroCMSとPaddle社のM&Aを発表しました。この2件については、自社でパイプラインを設けて実施しました。今後、M&Aのスピードを上げていくこと、かつ、PMIを同時並行に行っていくことを考えると、現在の社内体制は不足していると認識しています。
同年6月に、アドバンテッジアドバイザーズ社との事業提携と、その親会社が出資するファンドを割当先とした資金調達を実施することを発表しました。事業提携によって、M&Aを行うパイプラインの拡大とそれを遂行する人材の採用と確保の面でご協力いただき、実効性を高めていくことを目指しています。
事業提携における4つの支援テーマ
アドバンテッジアドバイザーズ社の親会社が出資しているファンドから総額50億円の資金調達を発表しました。約25億円のCB(無担保転換社債型新株予約権付社債)と約25億円の新株予約権です。
また、事業提携については、4つのテーマで支援をいただきます。1つ目は、M&AおよびPMIの推進と体制強化。2つ目が、既存事業の利益水準向上。3つ目が、経営管理の強化。M&Aを進めていくためにはグループ全体の経営管理を強化して、足し算だけではなく引き算もする(採算が悪いところはカーブアウトさせていく)ことを考えていかなくてはなりません。そのためにも経営管理は特に大切だと思っています。最後が、IR活動。プライム市場の上場維持も喫緊の課題なので、資本市場への発信も強化しなければなりません。
外部パートナーとの協業を経て、さらなる成長を
自社が長く運営してきたビジネスに対して、客観的な立場である社外の声を取り入れることは意義があると思います。外部パートナーから改善できる点をご指摘いただき、それを実行していくことで、まだまだ成長できると考えています。経営管理という観点で言うと、上場する前から含めて、エイチームは外部の資本をあまり意識することなく経営してきました。経営も効率化の余地はあると思うので、その点についてもご支援・ご提案・ご助言をいただきながら利益の向上を図っていきます。
業績向上と株価向上へ向けて取り組むこと
資本市場からの声に対して
株主の方々や面談をさせていただいている投資家の皆様から、厳しいご意見をいただくことも多いです。株価が最安値をつけてしまったり期初より下がってしまったり等、反省すべき点はあります。しかし、最安値と最高値を比べるとこの1年で200円以上の差があります。プライム適合計画の発表を皮切りに今後の成長戦略として「売上向上支援カンパニー」への変革を打ち出しました。戦略に対する蓋然性を高めるための開示を行い、2件のM&Aの発表、アドバンテッジアドバイザーズ社との提携、着実に成長戦略を遂行しています。業績も、FY2024上期は赤字でしたが直近のFY2024Q3では黒字に転じました。そのような事実が積み重なったことで、資本市場からは徐々に評価いただけているのではないかと考えています。
未来を示したことによる期待感の高まり
資本市場の期待に応えるために、業績をさらに向上させ、新たな成長戦略を成功させて、株価を上げていかねばならないと思っています。投資家の方からの質問も、成長戦略を打ち出した一年前に比べると期待が含まれたものに変わってきました。一年前は、私たちも今後の方向性をはっきりと打ち出せておらず、いただく質問も過去のことや決算に関する内容がほとんどでした。
今回、未来への方向性を打ち出したことで、戦略に対する質問等、未来に関する話が増えてきました。皆様からの期待感が高まっていることを実感しています。それに応えていけるよう、エイチームグループ全員で頑張っていきたいと思います。
株主や投資家の皆様へのメッセージ
いつも応援していただき、ありがとうございます。苦しい時期が続いたこともあり、厳しいご意見もいただいておりますが、今後の方向性として新たな成長戦略を打ち出しました。それに対しては、様々なお考えやスタンスがあると思いますので、全員にご賛同いただけるかはわかりませんが、面談をさせていただいている皆様からの期待が徐々に高まっていることを実感しています。
今回打ち出した成長戦略にはエイチームらしさがあり、そして、私たちの強みを活かせるものです。グループ全体で一丸となって、この戦略を遂行し、さらに高いステージを目指していけるよう頑張っていきます。引き続き、応援を賜れますと幸いです。
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